2010/09/27

フランスのオトコとオンナの事情1

2007年4月から毎日新聞のウェブサイトmainichi.jpに連載したコラムに加筆し、「Blog パリの空の下から」で続きを掲載します。このコラムは、実体験を元にしたものと、日々目を通す新聞や雑誌などを情報源にしたもので構成されています。フランスの「オトコとオンナの事情」は、映画や小説よりも奇なり。





「アンヌ(当時20・仮名)は2週間に一度、父親の運転する車でパリ郊外のロワシー空港へ行く。ロンドンからやってくる“いま”のカレが来るからだ。このところ父親から貰う小遣いとアルバイト代はカレの飛行機代に消えている。アンヌもカレも定職をもっていない。

フランスでは若者の就職難が社会問題になっている。政治家が雇用問題の解決を試みるたびに学生たちはデモを繰り広げ、大学は勿論、高校までもが封鎖されてしまう。日本のように新卒を採用するケースは稀だ。ご他聞に漏れずアンヌ

も就職先が見つからず、アルバイト先を点々としている。

アンヌはパリ郊外の大きな一軒家に父親と恋人、母親とその恋人、父親の2番目の妻の息子セバスチャン(21)と暮らしている。両親の夫婦関係はすでに終わってしまったが、友情が続いている。母親は、友情にすがり同居という形であっても最愛の男のそばにいたいと言う。しかし、同じ屋根の下で暮らしていても両親とアンヌが3人だけになることは滅多にない。家族3人、という形は過去の話だ。

両親はアンヌが3歳の時に離婚し、父親は2番目の妻と新しい暮らしを始めた。この女性も自分の家庭を持っていたけれど、3人の子どもを連れてアンヌの父親と再婚。フランスでここ15年来増え続けている新しい家族の形、複合家族(famille recomposée)の誕生だった。アンヌとセバスチャンのように血のつながりのない兄弟が「家族」になる。

アンヌは父親の複合家族で2週間過ごし、母親と恋人が暮らす別のアパルトマンで残りの2週間を費やした。アンヌの場合は、両親が近くに住んでいたので2週間ごとに居を移すことが可能だった。リュックを背負ってヤドカリのような幼少時代を過ごすフランスの子どもは少なくない。両親が離れている場合は、基本的に母親の元で過ごし、2週間後との週末を父親と過ごすケースが多い。

複合家族が始まってまもなく、父親と2番目の妻の間に子どもが生まれた。つまり、アンヌとセバスチャンに共通の妹ができた。ところが妹が3歳になった年、父親の2番目の妻は新しい恋人の元へ去って行き、また離婚。今度は妹がアンヌのように、父親の一軒家と恋人と暮らす母親のアパルトマンを2週間ごとに行き来した。妹もまたヤドカリのような幼少期を経験した。

両親と子どもがつくる家族の形に執着せず、愛を求めて「家族」をつくりかえていくフランスのオトコとオンナたち。アンヌの周辺で繰り広げられた愛のドラマを綴っていく。」(mainichi.jp 2007年4月3日掲載)