2011/01/12

フランスのオトコとオンナの事情3

アンヌの部屋は三階の階段を挟んで右側にある。左の部屋は2週間ごとにやってくる妹の部屋だ。父は2つの部屋をはさんだ階段の踊り場に大きな机を置いて、時折ぼんやりと座っていることがある。階段を昇り降りする娘たちとたわいない言葉を交わしたり、時には真剣な話をしたり、家族らしい時間と空間をつくるための父なりの努力だ。

「パパとお前の関係は何も変わらないよ」、アンヌは何度この言葉を聞いただろう。父はアンヌの母親と離婚した後、2人のフランス人と再婚・離婚を繰り返した。その後、数え切れない女性が現れては消えていった。パートナーが変わっても父はアンヌに変わらぬ愛情を注ぐと約束した。

数年前、父子関係で印象的な出来事が話題になった。民放テレビ局のメインキャスター同士の恋と告白。頭文字を略してPPDAと呼ばれ親しまれている男性キャスターは妻と娘がいる。ところが彼は、看板女性キャスターとの間にも息子を一人もうけた。10年後、著書のなかで息子の存在を明らかにし、息子への愛情を公に示した。

日本だったらどんな処分が待っているだろう。フランスでは、多様な生き方を寛容に受け止める。2人ともキャスターの資格を問われることなくお互いのキャリアを積んでいき、今回の大統領選挙でも2人ならんで特番放送を担当した。不倫関係にあったと後ろ指を指す人はいない。

アンヌの父も不倫・再婚・離婚を繰り返し、パートナーを次々に変えていくが、悪く言う人はいない。むしろ、娘たちを愛で、複合家族として時を過ごした元妻の息子セバスチャンを家族同様に迎え入れる寛容さに目を細める人々が多い。

しかし、父の愛情が上手く伝わらないこともある。アンヌに妹ができた時、つまり父が2番目の妻との間に子どもをもうけて以来、変わらないはずの愛情はより多く妹へ向けられている。ある日、アンヌは父の関心を引こうと、身体に小さなタトゥーを入れた。その数がひとつ、またひとつ増えていった。右肩のタトゥーは日本語で「愛」とある。

アンヌの父親は、娘からのシグナルがなんであれ、新しいパートナーとの恋に生き続けている。彼の友人たちも然り。

次は、父の友人を通してオトコたちの生き様と愛情をさらに深く観察して見よう。

(mainichi.jp 2007年5月4日掲載)

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