フランスには、素敵な生き方をしている女性がたくさんいます。
ラシダ・ダチさんについて書いた記事をまとめました。
2008年9月9日 mainichi.jpによせたコラムから
フランスの閣僚として、初めてのシングルマザーが誕生するかもしれない。移民系の女性で初めて法務大臣という重要ポストに抜擢されたラシダ・ダチ法相。サルコジ政権がアピールする多様性のシンボルともてはやされてきた。閣僚としては若いが、母親としては高齢といわれる42歳だ。フランス社会は、「異例」とも言われそうな彼女を問題視しない。ラシダ・ダチさんについて書いた記事をまとめました。
2008年9月9日 mainichi.jpによせたコラムから
夏の休暇が終わるとダティ法相のお腹がふっくらと目立つようになっていた。AFPによると、先週なかば、閣議前にお気に入りのジャーナリスト数人と朝食を共にし、懐妊の事実を認めた。ル・モンドの電子版は、その日の午前10時すぎに情報を流し、「まだ安定期に入っていないので慎重にしたい。子どもを持つことは以前から望んでいた。実現したら嬉しい」という法相のコメントを伝えた。閣議後に姿を見せたダチ法相は、大きくなったお腹を隠そうとする様子もなく堂々としている。
独占インタビューを行った週刊誌ル・ポワンによると、法相はできるだけ長く公務を続けるつもりだと言う。これに対する表立った反対意見はない。フランスでは、社会党の大統領候補だったセゴレーヌ・ロワイヤルさんをはじめとして、これまでに3人の女性閣僚が任期中に出産している。ロワイヤルさんは1992年に環境大臣だった時に4人目の子どもを出産し、すぐに公務に戻っている。
ダチ法相は独身で、決まったパートナーの名前を公表していない点が3人の女性閣僚とは異なる。「私の私生活は複雑」として子どもの父親については堅く口を閉ざしている。法相が懐妊を認めた翌日、国営放送フランス2が、スペインのアスナール前首相が父親説を否定したと伝えていた。アスナール前首相とダティ法相は、去年12月にサルコジ大統領とカーラさんが主催したパーティーで知り合い、親しかったようだ。スペインの前首相のほかにも、フランスの現職閣僚、有名レストランの経営者、マスコミ関係者の名前が挙がっている。インターネットで噂が飛び交っているようだ。
ダチ法相は、60年代にフランスに渡ってきたモロッコ人の父親とアルジェリア人の母親から生まれた複数の子どもたちの2番目。自伝「あなたの判断にゆだねる」(Je vous fais juges, 2007年)によると、1992年に家族が決めた男性と言われるままに結婚したものの、4ヵ月後に結婚の無効を申請した経験を持つ。以後、独身だ。北アフリカの伝統的な家族観に縛られず、フランスの自由な現代女性の最先端を闊歩していく。
出産の予定は来年1月。これから公務も忙しくなりそうだ。一刻も早く安定期を迎えて、公私ともに望みを叶えて欲しい。
2009年1月6日 mainichi.jp「パリ便り」コラムから
2000年から年間80万を超える赤ちゃんが生まれているフランスでは、今年もベビーブームが続きそうだ。新年明けて早々、法務大臣のラシダ・ダチさん(43)が女児を出産した。予定日よりも2週間ほど早く、帝王切開での出産だった。大きなお腹をもろともせず、かかとの高く細いハイヒールをはいて颯爽と歩く姿をテレビニュースで見たのは数日前のこと。出産後も病院から法務省に指示を出して仕事を続けているそうだ。出産休暇はできるだけ短くし、法相のイスを空けるのは数日間にとどめる予定らしい。
ダチ法相は結婚をせずに出産したが、これはフランスの現代的な傾向を物語っている。2006年ごろから婚外子が50%を超えており、約半数の子どもは結婚していないカップルから生まれている。しかし、43歳という高齢出産は、フランスでもまだ珍しい。2007年の平均出産年齢は、29,8歳。40歳以上で出産したのは、全体の4.6%にとどまる。
高齢にもかかわらず臨月に入っても精力的に活動する姿を見て、感心したが心配にもなる。ところが、ダチ法相は「疲れていないか」と聞かれるのにうんざりしていたそうだ。日刊紙ル・フィガロによると、ダチ法相にとって妊婦のイメージは10人の弟妹を出産した母親にあった。妊娠中も出産後も元気に動き回っていた母親の姿を自分に重ね合わせて、黙々と仕事に打ち込んでいたようだ。
去年9月に妊娠を公表してから、子どもの父親は明らかにされていない。インターネット上のあるサイトは、早々に父親説を否定したスペインの前首相の名をあらためて挙げている。モロッコの有力な情報筋をネタ元にしている。また、出産後、サルコジ大統領の長男が産科クリニックに駆けつけたことから、新たな噂が飛び交っている。12月31日に、サルコジ大統領の側近やカーラ夫人の友人たちなど10数名が大統領府に招かれたが、その重要人物のなかにダチ法相も入っていた。サルコジ大統領とは疎遠になりつつあるとも言われているが、大晦日をともに過ごしているところを見ると、なんらかの切れない関係がありそうだ。
サルコジ大統領の意向をうけて、法曹界を敵に回しながらも司法改革を実行してきたダチ法相だが、今月下旬に予定されている内閣改造で、ポストを追われるのではないかとささやく声もある。石油大手企業からのオファーがあり、政界から財界へ華麗なる転身をとげるのではないかとも言われている。
2010年3月 mainichi.jpコラム最終回から抜粋
移民系出身で初めて重要ポストに抜擢されたと騒がれたラシダ・ダチ法務大臣は、シングルマザーとなってからもメディアの注目を集めている。最近、テレビやラジオに出演し、プライベートライフを語りはじめた。両親とその子どもたちを家族の形と考えるイスラム教の家庭でありながら、フランスが誇る「自由」を許容するダチ法相の家族。テレビ番組では、この実態が驚きを持って伝えられた。フランスに暮らしながらもイスラム教の慣習に縛られている女性たちは、ダチ法相の自由な生き方に影響を受けたことだろう。
ダチ法相の出産は、私自身にも大きな影響を与えた。40歳をすぎた働く女性が妊娠したというニュースは、同年代の働く女性たちを勇気づけた。
日本にいた頃、キャリアか出産かの選択に迫られている気がして、仕事と子育ての両立など想像もできなかったことが、なぜフランスでは実現できるのだろう。
多様で複雑な家族の形、自由なオトコとオンナの関係や女性の生き方を認める社会の懐の深さが理由であるように思う。
2011年2月23日
ラシダ・ダチさんは、2009年6月に法務大臣を辞め、7月から欧州議員として政治活動を続けています。