トマ(30)とマリー(30)は5年前、シャンゼリゼ界隈のディスコで出会い、翌日にカフェでデート、翌々日にトマはマリーのアパルトマンに転がり込み、共同生活がはじまった。トマは清掃会社の事務職員、マリーは小学校の教諭。2人は結婚という制度に拘束されたくなかったため、2005年にパックス(Pacs)というカップルの契約、連帯市民契約を結んだ。
結婚でも同棲でもないフランス独自のカップルの形態で、1999年にこの契約ができた当初は Mariage pour homosexuels(ホモカップルの結婚契約)と呼ばれることもあった。結婚が認められていない同性愛者たちも結婚と同じような権利と義務を与える契約と注目されたが、最近はトマとマリーのような異性カップルの数が契約全体の93%を占めている。結婚に代わるカップルの形として定着しつつある。
2人にパックスを選んだ理由を聞くと、「節税対策」とあっさり答えた。2人が契約を結んだ2005年、パックス法が改正されて契約を結んだ年から所得税が共同で申告できるようになった。高い所得税にため息をもらしていた2人は、パックス契約後、結婚した夫婦のように1つの世帯として所得の申告ができるようになり、収める税金も減った。
この法改正の効果は数字に表れている。フランスの法務省が先日発表した統計によると、2000年におよそ2万人だったパックス契約者は2006年には3倍に増えている。2005年の法改正後、毎月5000人以上が契約し、特に6月や7月など結婚シーズンに契約者が増えた。平均年齢も結婚年齢に近い31.5歳。この統計は、結婚に代わりパックスを選ぶカップルが増えていることを裏付けている。(Infostat Justice octobre 2007, No97)
経済的理由のほかに2人は、「現代的だから」と言う。税制優遇措置など社会的権利を得ると同時に果たさなければならない義務もある。しかし、結婚と違って契約の締結・解消は簡単で自由だ。2人は、近くの小審裁判所(日本では簡易裁判所にあたる)に戸籍抄本など必要書類を持参して契約書にサインした。結婚の場合は、役所(パリは区役所)に届出でて、市町村長の前で宣誓をする。パックスにはこのような儀式はない。
トマとマリーは、暮らしに余裕がでてきたので子どもを持とうと話しているが、パックスを結婚に変えるつもりはない。フランスでは結婚以外の形で生まれた子どもも、結婚したカップルから生まれた子どもと同じように扱われ、名字も両親の氏を名乗ることができる。
パックスに不都合を感じないという。
フランスのカップルは緩やかな関係を好んでおり、社会もその期待に応えている。
(mainichi.jp 2007年10月16日掲載)
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