2011/02/14

フランスのオトコとオンナの事情8(最終回)

アンヌの家に、スーツケースをかかえてやってくる日本人女性は一ヶ月ほどすると姿が見えなくなった。父は、モノを買い揃え歓待したが誰も一ヶ月もたない。彼女たちは、大邸宅で繰り広げられる複雑な<家族>に馴染めず、パリの小さなアパルトマンで父と暮らしたいと訴える。頑として譲らない父に愛想を尽かし、彼女たちは大邸宅を後にした。

意を決した父は、アンヌの母に共同生活の解消を申し入れた。娘たちの部屋を確保しつつ、日本人女性を迎えるためには、アンヌの母に出て行ってもらうしかない。声を荒げた話し合いが何日も続いた。家賃や引越し費用を負担したのは父だけれど、この大邸宅を探し、暮らせるように準備を整えたのはルテシアの母だ。

母は荷造りを始めたが、引越し先が見つからない。この間も日本人女性がやってきて、しびれを切らせて去っていった。父は肩を落としたが、数日後にはインターネットで代わりの女性を探し始めた。「日本人形が欲しい」、父が探しているのは、自己主張をしない人形のような女性だ。

そうこうしている間に、父の妹が二回目の離婚を決めた。父は家を追い出された妹の元夫を自分の家に迎え入れた。更に、恋人の男性と別れ行き場を失った男友達のために、居間に簡易ベッドをつくってあげた。大邸宅は無料ホテルと化して、様々な人が出入りした。

アンヌは、メークアップアーティストを目指して学校に通い始めた。妹は、母親のような看護婦になりたいと学業に励んでいる。2週間毎の週末、アンヌと妹はそれぞれの恋人を連れて父の家で過ごすようになった。父の恋人や友人たちに囲まれて、それぞれがBon week-end (よい週末)を楽しんでいる。

時折、アンヌは親子3人の写真を眺める。両親に連れられてエッフェル塔付近を散歩した時のもので、3人だけの最後の写真だ。しかし悲壮感はない。写真には写らないが、父子の絆、母子の絆は強い。それらの絆は、目に見えないアンヌの<家族>としてしっかりとつながっている。

8回に渡って書き綴ったアンヌの<家族>は、ひとまず終わり。事実は小説よりも奇なりとは、フランスのオトコとオンナにあてはまる。小説や映画に出てくるような人々に出会うたびに唖然。感情に正直すぎる生き方にまた唖然。自分の幸せを探し求めるパワーに圧倒させられる。

家族観・人生観は多種多様、模範解答なんて存在しない。オトコとオンナの事情に柔軟なフランス社会を今後も観察していきたい。

(mainichi.jp 2007年6月8日掲載)

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